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バレンシア決勝 ベイリスの勝利とそれ以上の伝説
インテリマーク編集部
2006年10月30日

10月29日、かつてない波乱に富んだ2006年のMotoGPシーズンが、ついに最終ラウンドのバレンシアにおいて決勝レースの日を迎えた。
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■最終戦に持ち込まれたロッシとヘイデンの最後の決着

前回のエストリル戦でのニッキー・ヘイデンのまさかのノーポイントにより、今回の最終戦を前に年間ランキングを逆転してポイントリーダーとなった最高峰クラス5年連続王者であるバレンティーノ・ロッシの990ccクラス完全制覇と、8ポイントの差を奪われて最終戦に挑む事になったニッキー・ヘイデンの初の年間タイトルをかけての争いに、決着の時が訪れた。
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■かつてない緊迫のワークス対決、必死のペドロサとエドワーズ

2006年シーズンの終盤戦はロッシの所属するキャメル・ヤマハ・チームと、ヘイデンの所属するレプソル・ホンダ・チームによる2大ワークス対決の様相を呈した。

エストリルでは、当時のポイントリーダであり、初の年間タイトル獲得はほぼ間違いないと思われていたチームメイトのヘイデンを巻き込んで転倒し、ホンダ陣営を窮地に追い込むという大失態を犯したダニ・ペドロサが、今回のバレンシアでは、ホンダと自らの汚名返上をかけ、死に物狂いでヘイデンの逆転タイトル獲得に向けてのアシストを行う事は間違いない。
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その一方で、シーズン前半を通して、ロッシと同様にヤマハのマシンの不調による影響を大きく受けた事による成績不振のまま望んだ終盤戦で、自らキャメル・ヤマハのチームメイトとしての役割に徹し、不利な状況にあったロッシのタイトル獲得に向けて貢献する姿勢を見せ続けたコーリン・エドワーズが、最終戦のバレンシアでもレプソルの2名をはじめとするホンダ勢のかく乱作戦をロッシの後方で企てない筈はない。

■自分が1位を獲得できない場合はロッシのミスが必要なヘイデン

写真追い抜きが難しいバレンシアでポールポジションを獲得したロッシは、この戦いでヘイデンの前でチェッカーを受けるか、ヘイデンの後方でも8ポイント差以内の範囲でレースを終えれば、連続6回目の最高峰クラスでのタイトル獲得が決まる。2列目5番グリッドからのスタートとなったヘイデンは、本人は表彰台の頂点を奪って、後方のチームメイトやホンダ勢のアシストを受けてロッシを3位に抑えるか、本人が表彰台の頂点に立てない場合はロッシのなんらかのトラブルによる大幅な順位後退を期待するしかない。

自力での優勝が容易なロッシと、自分には決してミスが許されず、同時にチームメイトの活躍かロッシの不調を期待するしかないヘイデンでは、明らかに2006年シーズンもロッシに軍配が上がる可能性が高い。

■プレッシャーを感じているのはどちらか

しかしながら、波乱につぐ波乱の2006年シーズンにこれまでの常識は通用しない。ロッシの過去5回の最高峰クラスでの優勝は、圧倒的なポイント差の中で精神的に余裕を持ってのものばかりだった。1回きりの最終戦のレースのみで年間タイトルが決定するというプレッシャーの高い優勝決定戦をロッシは経験していない。

実際のところはレースが始まってみない事には分からないが、「勝ち目はないかもしれない。ただ失うものはないから全力で走るのみ。」と開き直りの境地に落ち着いたヘイデンと、「チャンスは1回のみ」と発言していたロッシでは、どちらの精神的負担が大きいだろうか。
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■緊張のレース開始

写真MotoGPクラスのレース開始直前の気温は32度、路面温度は43度と、レースウイーク中過去2日間のどちらよりも高い温度となった決勝レースは完全ドライ・コンディションに恵まれ、波乱の最終戦を締めくくるに相応しいレース日和となった。

バレンシア(リカルド・トルモ)サーキットにつめかけたおよそ13万人の観客が見守る中、ついに今期最後のレッド・シグナルが消え、来期に向けてのテスト参戦を果たしたイルモアのギャリー・マッコイ、および怪我で欠場したセテ・ジベルナウの代役としてスポット参戦したドゥカティーのトロイ・ベイリスを含む20名のMotoGPライダーが、一斉に1コーナーを目指して勢いよく前に飛び出した。

■完璧を誇るロッシがスタートを失敗

今回の最終戦でも、波乱はシグナルが消えると同時に発生した。過去5年間、スタートで大きなミスをした事など1度もないバレンティーノ・ロッシがフロントを浮かせてマシンを弾ませながら一瞬失速し、過激な加速を見せるまわりのライダーたちに次々と飲み込まれていく。完全にスタートダッシュに出遅れたロッシは慌ててマシンを加速体制に入れようともがくが、その横を、ロッシが今日は絶対に抜かれたくなかったニッキー・ヘイデンのマシンが、ほとんど接触するかのような近距離で追い越した。
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慌ててロッシは加速し、辛うじてヘイデンの前に出る。

■ホールショットはSBKチャンピオン

オープニングラップでホールショットを奪ったのは2番グリッドからスタートしたトロイ・ベイリスと、3番グリッドからスタートしたロリス・カピロッシという2台のドゥカティー勢。それに続いたのはチームワークでヘイデンの逆転タイトルを狙うレプソル・ホンダのダニ・ペドロサだ。
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3番手につけたペドロサの背後には4番手のケーシー・ストーナー、さらにその後ろにはイン側についたヘイデンとアウト側のロッシが並び、1コーナーを抜けるとすぐに、ヘイデンは再びロッシの前に出て5番手につけると2コーナーに向かった。

■ロッシの走行の邪魔はできなかった中野選手

この時の順位は先頭から、トップにはベイリス、2番手にカピロッシ、3番手にペドロサ、4番手にストーナー、5番手にヘイデン、6番手にロッシ、7番手に中野選手。8番手にはリズラ・スズキのクリス・バーミューレンが続いた。

この段階で走りに余裕を見せるカワサキの中野選手の目前にはロッシが迫っていたが、中野選手は一歩ひく形でタイトル争いの中心人物であるロッシの走りを後方からうかがっている。

■多くのライダーに挟まれ、身動きのできないロッシ
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「ポールポジションの獲得が追い抜きの厳しいバレンシアでのレース戦略の1つだった。」と、ロッシは前日の予選の後に満足げにコメントしていたが、これで彼の当初の計画は完全に水の泡だ。ロッシはオープニングラップの後半でメランドリにも交わされ、7番手まで後退した。バレンシアの限られた走行ラインの中、身動きが取れない状態だ。

先頭のベイリスが今期のSBKで見せていた余裕の単独トップ走行を、MotoGPレギュラー・ライダーたちに見せつける中、ヘイデンはストーナーを交わして4番手に順位を上げ、ペドロサはカピロッシを交わしてベイリスの背後の2番手につけた。

■ペドロサが2番手、ヘイデンが3番手、ロッシは7番手に

2ラップ目の3コーナー、ヘイデンはカピロッシを交わし、チームメイトの背後となる3番手につけた。順位は先頭から、ベイリス、2番手にペドロサ、3番手にヘイデン、4番手にメランドリ、5番手にカピロッシ、6番手にストーナー、7番手にバレンティーノ・ロッシ、8番手にバーミューレン、9番手にカワサキの中野選手。

■ペドロサにより、レプソル・ホンダの夢見たフォーメーションが完成
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3ラップ目の2コーナー付近、2番手を走行するペドロサは背後のチームメイトに足でサインを出し、左コーナーのインを開ける。ヘイデンはペドロサからのサインを見逃す事なくの内側を悠々と通り抜け、先頭の3台はベイリス、ヘイデン、ペドロサの順となった。レプソル・ホンダがエストリルの絶望の後に夢見た勝利へのフォーメーションがここで完成する。

■ロッシの後方からの追い上げをヘイデンの背後で待機するペドロサ

4ラップ目にペドロサはメランドリに交わされ4番手に後退するが、後方のどこかを走行しているロッシからのアタックにそのまま備えている。先頭集団に辿り着きたい7番手のロッシは、前方のストーナーを抜こうと必死でイン側やアウト側を交互にうかがうが、連続するタイトコーナーの中ではどうする事もできない。
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グループ先頭付近は完全にSBKで見慣れた光景となり、ベイリスが後続を引き離して逃げ続けている。それを必死で追うヘイデンが、少しずつだがベイリスとの差を詰め始めた。

■焦るロッシ、頼みのチームメイトも不調

逃げるレプソル勢を前方の遠くに見ながら焦りの色が濃厚になるロッシは、縁石に乗り上げてバランスを崩しかけるが、すぐにマシンを立て直し、再びつんのめるかのようなマシンの挙動を見せながら何度もストーナーに接近しては離れるという走行を続けている。

また、ロッシをアシストする予定だったキャメル・ヤマハのチームメイトのコーリン・エドワーズは、決勝当日の路面温度の上昇によりペースを上げる事ができず、11番手を走行。

■目を疑う光景、ロッシが自ら転倒
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5ラップ目、悲劇の続いた2006年シーズンのロッシにとって、駄目押しとなるまさかの悲劇が第2コーナー付近で発生した。7番手を走行し、マシンを左に傾けてコーナーを曲がるロッシのリアが流れ、キャメル・ヤマハ・カラーの46番車はそのままグラベルに横倒しのままゆっくりと飛び込んだ。
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慌ててマシンに駆け寄り必死でマシンを起こすバレンティーノ・ロッシに、現地マーシャルが何人も駆け寄って最走行を手伝う。ロッシは再びコースに戻る事には成功したが、この時のロッシの順位は20人中の最後尾となる20位まで後退してしまった。
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6ラップ目、カワサキのランディー・ド・ピュニエがロバーツ・ジュニアを交わそうと激しくプッシュして転倒、再走行を断念する中、先頭からベイリス、ヘイデン、メランドリ、カピロッシ、ペドロサ、ストーナーの中の4番手につけるカピロッシがファーステストを記録し、前方のメランドリを捕らえた。半ば強引な形でカピロッシはメランドリのインを奪うと3番手に順位を上げ、そのまま2番手を走るヘイデンの追撃に入る。
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■カピロッシがヘイデンを交わし、ドゥカティーは1・2体制

8ラップ目の1コーナーでカピロッシは先頭のベイリスを追うヘイデンに並びかけ、次の2コーナーで2番手に浮上し、先頭の2台はレースのオープニングと同じくドゥカティーの2台体制となった。
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ロッシの最後尾からの追い上げの可能性がある限り、少しでも順位を上げておきたいレプソルのホンダのヘイデンは、3番手からドゥカティー勢を追い続ける。
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■ヘイデンが3位表彰台の場合、ロッシは8位に入ればタイトル獲得

ド・ピュニエの転倒により19番手となったロッシは、ニッキー・ヘイデンがこのまま3位でチェッカーを受ける場合、最低でも8番手まで順位を挽回できなければ、6度目のタイトル防衛の夢は消滅する。
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■ポイント圏内まで順位を戻したロッシ

ロッシは10ラップ目にイルモアのギャリー・マッコイを交わして18番手となり、同じ頃に2コーナーでアレックス・ホフマンがフロントを失い単独で転倒リタイアした事でさらに一つ順位を上げて17番手に。さらに12ラップ目にはハイサイドをしかけたカルドソがグラベルに飛び込みリタイア、13ラップ目にはギアボックスにトラブルを抱えたクリス・バーミューレンがギア抜けを起こして最終コーナーを曲がりきれずにリタイアした事から、ロッシはついにポイント圏内の15番手まで順位を戻した。

ペドロサは12ラップ目に4番手のメランドリを交わそうとしてコーナーを大回りし、その隙にストーナーに交わされて6番手に順位を落としている。
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■2番手のカピロッシとの差が縮まらないヘイデン

レース中盤の15ラップが過ぎても、3番手のヘイデンはトップのベイリスと2番手のカピロッシとの差を縮める事ができない。先頭のベイリスとカピロッシの間には直線でマシン4台分の距離、2番手のカピロッシと3番手のヘイデンの間にはマシン2台分の間隔が開いている。

ペドロサは16ラップ目にストーナーを交わし、19ラップ目にはメランドリも交わして順位を4番手まで回復した。
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■レギュラーのカピロッシにも捕らえられないセテの代役ライダー

先頭のベイリスをドゥカティーのレギュラー・ライダーであるロリス・カピロッシが必死に追い続け、その2.5秒後方の3番手をヘイデンが走行していた24ラップ目、メランドリを交わして4番手のペドロサを追っていたケーシー・ストーナーが6コーナーで転倒し、そのままリタイアした。
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ストーナーの転倒により、ジェームス・エリソンを交わした直後のロッシは13番手となったが、8位まで順位を取り戻したい彼の前方を走る12番手の玉田選手との差は、残り周回数が6ラップしかないこの時点で8秒開いている。
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■緊張するレプソルのピットクルー、転ばなければ逆転タイトル

転倒者が相次いだ最終戦、全30周回となるレースの27ラップを過ぎて走行中のライダーは、先頭のベイリス、2番手のカピロッシ、その4秒後方を走る3番手のヘイデン、4番手のペドロサ、5番手のメランドリ、6番手のトニ・エリアス、7番手の中野選手、8番手のケニー・ロバーツJr、9番手のコーリン・エドワーズ、10番手のジョン・ホプキンス、11番手のカルロス・チェカ、12番手の玉田選手、13番手のバレンティーノ・ロッシ、14番手のジェームス・エリソン、それに7周回遅れとなった最後尾のギャリー・マッコイを含む15人しかいない。
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よほどのアクシデントがない限り、このペースのまま無理をせずにニッキー・ヘイデンが3位表彰台を獲得すれば、彼が前回のエストリルでは殆ど諦めていた念願のワールド・タイトルが決定する。ホンダのチーム関係者が固唾を呑んで見守る中、ヘイデンは今期シーズン中に見せ続けた安定した走りを崩さす事なく、最後まで周回を重ねていった。
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■レースを制したのは圧倒的強さを誇る現役SBKチャンプ

15名の順位は、27周目から全員がチェッカーを受け終わるまで全く変わらなかった。
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最終ラップのファイナルラップで最初にチェッカーを受け、2006年度のMotoGPシーズン最終戦で優勝を飾ったのは、本当に勝ってしまったドゥカティーのスポット参戦ライダー、今期のSBKチャンピオンであるトロイ・ベイリスだ。ベイリスは近代希に見る熾烈な年間タイトル争いを『背後に』従えて、一人リラックスしてライディングを満喫した。
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今年37歳の現役SBKチャンピオンが、MotoGPにスポット参戦をして勝利を飾るという伝説を作り上げたベイリスは、MotoGPバイクに乗るのはこれが最後と語った。

「正直言って、今週はおとぎ話の世界にいるようでした。まだ自分をつねって確かめてますよ!」とベイリス
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「今年は素晴らしい年になりました。ワールド・スーパーバイクで勝ったのが最高の物語の始まりでしたね!それが落ち着いたところで電話があり、今回の話に興味がないか持ちかけられたんです。これは全く断る事なんかできない相談でした。デスモセディチの開発プロジェクトにロリスと一緒に2002年末から参加し、2003年と2004年には最高の時間を過ごしましたから、990ccの最後のレースでここに戻ってこれるなんて本当に出来すぎた話です。最高でした。」
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「スーパーバイクのチームからはエルネスト・マリネッリ、パオロ・チャバッティ、それにダビデ・タルドッジの3名も来てくれた上に、懐かしい2004年の時のチームと一緒に着実に作業を進める事が出来て、本当に楽しい週末でした。」

「これが自分にとってはMotoGPで走る最後の機会になりますので、全ての人たちに感謝したいです。楽しめただけではなく、リラックスもさせてもらいました。また、チームに残る若い人たちに今後を託す上でも、一番いい方法が取れたように思います。」

「優勝できるなんて最高です。今でもこの世界で速く走れる事を証明させてもらいました。」

■2位を獲得したカピロッシ「今期の自分はミスを犯さなかった」

トロイ・ベイリスに続いてチェッカーを受け、2位表彰台を獲得したのは、同じくドゥカティーのロリス・カピロッシだ。

今回のレースの結果により、年間ランキングを1つあげて3位でシーズンを終える事ができたカピロッシは、2006年シーズンが素晴らしい1年であった事を振り返っている。

「すごいシーズンでしたね。一番良かったのは、レースごとに優勝者が変わって面白いバトルが多かった事です。」とカピロッシ
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「今週末は最初から調子が良かったです。金曜日と土曜日が良くて、今日はさらに好調でした。」

「レースはスタートがうまくいかずに何人かに抜かれてしまいました。結局彼らを抜き返して、その後はトロイについて行こうと頑張ったんですが、今日の彼の走りはちょっとすごすぎました。ピット・ボードのサインから、ランキング3位に上がるには2位表彰台で十分だという事は分かりましたが、それ以前にトロイを交わす事は難しい状態でした。」

「今シーズン中はひどい時期もありましたが、1年を通してこのチームは本当にいい仕事をしてくれました。いつもバイクを良く仕上げてくれた事に感謝しています。それに、自分も何ひとつミスは犯しませんでした。」

「今の自分たちの頭にあるのは来期の事だけです。数日後に800ccのテストを再開しますが、すでにあのバイクは悪くない状態にあります。それに、ブリヂストンの力を大きく信頼しています。時々タイヤが完璧じゃない時もありますが、それ以外の時は素晴らしいですからね。」

「トロイに祝福を送りたいと思います。金曜日に彼のあまりの速さを見た時は言っちゃいましたよ。『ほほぉ、これはすごい才能の持ち主だ。将来有望だねぇ。』ってね。」

■悲願達成!初の年間チャンピオンに輝いたヘイデン

写真そして3人目にチェッカーを受けたライダーは、MotoGPクラスの新しい支配者だ。

2輪ロードレース最高峰クラスで自身初のワールド・タイトルに輝いたのは、MotoGP参戦4年目の元AMAチャンピオン、レプソル・ホンダにおける活動4年目にしてエースの座を獲得し、かつてのチームメイトである王者ロッシからチャンピオンの座を奪い取る事に成功したアメリカ人ライダー、ニッキー・ヘイデンだ。

バイクの上で暴れるようにしてウイニングランを続けるニッキー・ヘイデンに次々と他のライダーたちが祝福を送る中、13位でチェッカーを受け、5ポイントの僅差で6度目のタイトル獲得の夢が敗れたキャメル・ヤマハのバレンティーノ・ロッシが、背後から近づいてヘイデンの右腕を掴んだ。

一瞬固まったヘイデンだが、すぐに冷静に戻った彼はロッシとの握手を交わした。

■泣き崩れるヘイデン

その後、スペインの花火職人にバイクから降ろされたヘイデンは、すぐさまアスファルトの上に、歓喜のあまり泣き崩れてしまう。それでもスペインの花火師は、ヘイデンが爆竹に引火するまでは彼の自由行動を決して許してはくれない。泣きながら爆竹に火をつけたヘイデンは、再びバイクに跨り、宙に向かって吼えながら仲間の待つピットへの走行を開始した。
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■ヘイデン「ダニとは紳士協定を結んだ」

表彰台の真ん中には最終戦で優勝を飾ったベイリスと、その隣には2位のカピロッシ、そして3位表彰台の上では悲願の年間タイトルを獲得したニッキー・ヘイデンが最大級の喜びを見せる。また、最後にベイリスは、世界チャンピオンとなったヘイデンに表彰台の頂点を譲った。
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記者会見後にも涙が止まらなくなり、タオルで顔をいつまでも覆っている新しいMotoGP世界チャンピオンのヘイデンには、世界中の多くの人が温かい視線を送った事だろう。

「人生で何かに集中し、その夢を達成した時は、本当に気分のいいものです。」とヘイデン

「今日は自分にとっても、チームにとっても、また自分の家族にとっても誇れる日になりました。自分の地元のみんなにも感謝したいです。オーエンスボロ(ヘイデンの地元のケンタッキー州の街)のあたりでパーティーをしてくれている事を願います。」

写真「エストリルの序盤で転倒した時に、夢は終わったかと思いましたが、諦めるのは嫌でした。レースでは何が起こるか分かりませんので、最後まで戦い続けただけです。いい人にはいい事が起こると信じているので、今日は本当に最高です。」

「満員の大観衆が見守る中でのウォームアップ・ラップ中に、実は涙ぐんでたんです。これが人生の中で最大のチャンスで、これからそれに向かうんだと実感しましたからね。ずっと今年は自分の年だと感じていました。エストリルでさえ、エリアスがロッシを破った時にそれを確信できたんです。」

「最初から全力を出し切る気でしたから、勝っても負けても、今晩はぐっすり寝るつもりでした。」

「スタートがうまくいって、最初の数周は先頭に出る事だけを考えていました。コースの路面上に何か跡が残っていて、その直後にピットボードで『Rossi P19(ロッシは19位)』を知らされたんですが、しばらくして『P17』、『P15』、『P14』と数字が減っていったので、これはまずい状況だと思いました。何人かのライダーは彼の為に順位を明け渡す可能性がありましたからね。」

「それに、ロッシの存在を決して甘く見る事はできないんです。バイクさえ無事なら、彼はすごい速さでポジションを挽回する筈ですから、自分の前を走るライダーたちと戦うべきかどうか迷いました。ロリスやトロイとドッグファイトをすれば、もっと前に出るチャンスもある訳ですから。」

「でも結局、必要になったら戦う事にして、離されないようにだけ気をつけました。そしたらピットから『P3 OK(3位で大丈夫)』のサインが出たんです。チームが計算してくれた数字を信頼し、後はできるだけスムーズな走りを心がけました。」

「本当にチェッカーが振られるまで結果は分かりませんでした。ロッシのようなライダーを倒す事ができて最高です。彼は7回の世界タイトル保持者ですから、この勝利は本当に価値があります。」

「ダニは今日、チーム・オーダーを受けてはいませんが、レースの序盤に自分を前へ行かせてくれました。昨晩は2人で話し合って紳士協定を結び、もし自分の世界タイトル獲得を彼が助けてくれたら、仲直りして一生恩は忘れないと伝えたんです。これから2〜3年も彼とチームメイトなら、彼に恩返しはできると思いますし、彼はいい奴ですからね。」

「レプソル・ホンダ・チームに関わる全ての人たちに心から感謝をしたいと思います。また、MotoGPクラスで5年間連続のタイトル獲得を成し遂げたミシュランにも感謝します。」

「来年は自分のRCVにNo.1のプレートを付けられるのが楽しみです。」

■静かに走り去るロッシ

コース上でヘイデンへの祝福を済ませたバレンティーノ・ロッシは、そのまま静かにピットへの走行を続けた。ピットに戻ったロッシにはキャメル・ヤマハ・チームからの、静かだが温かい拍手が待っていた。

■ロッシ「自分は残念だがニッキーと彼の家族の為には嬉しい」

有利な状態で挑んだ最終戦で年間タイトルを逃した事を悔やむロッシだが、彼はヘイデンに心からの祝福を送っている。

「もちろん自分にとってはひどく残念な事です。最終戦に8ポイントも有利な状態で挑んでタイトルを逃すなんて最悪です。」とロッシ
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「今日は2回のミスを犯しました。1つ目はスタートで、2つ目は転倒です。すごく感情的になるシーズンでしたね。素晴らしい時があったり不運にも見舞われたり、今回みたいにミスをしたり。でもこれがレースです。」

「今言える唯一の言葉は、ニッキーに対しての大きな祝福です。彼は素晴らしい人間性の素晴らしいライダーですし、彼は今年最も優れた走りをした世界チャンピオンです。彼の事は古くから知っていますし、彼の家族の事も良く知っていますから、これだけ落胆していても、彼らみんなのためには嬉しく思います。」

「今年は彼とのすごい戦いになりました。過去に戦ってきた論争好きなライバルたちと彼は違いますし、お互いに敬意を払っています。」

「ヤマハと自分のチームとエンジニア、それに関係する全て人たちの、今年の素晴らしい仕事内容に深く感謝しています。来年の800ccが今から楽しみです。来期もエキサイティングなシーズンになるでしょうし、すごいバトルがまた見れるでしょうね。」

■誰よりも安心したペドロサ

また、レース開始時にはいつも以上に緊迫した面持ちだったレプソルのピットは、レース序盤からヘイデンのチームメイトとして最高の走りとフォーメーション作りに徹し、自身は4位を獲得したダニ・ペドロサを歓声と共に迎えた。

エストリルでの一件以来、各方面への謝罪を行い最終戦でのチームメイトの優勝に自分の全ての力を注ぎ込むと公言していたダニ・ペドロサにとっても、プレッシャーの大きなレースウイークだったに違いない。

写真「この結果には大満足です。自分にとっても、ニッキーとチームにとってもです。」とペドロサ

「チームは今年に全てのタイトルを獲得しました。ライダーとコンストラクター、それにチーム・タイトルとルーキー・オブ・ザ・イヤーです。素晴らしいですね。」

「今日はみんなでいい仕事ができたと思います。スタートがうまくいったので、ニッキーが自分の後ろにつくのを待っていました。ニッキーが3位で自分が2位だと分かったので、足を出して彼がどこで自分を交わすべきかを伝えました。」

「そこからはだいぶ自分のペースを落として、ニッキーの背後に誰もつけないようにしました。メランドリとカピロッシには抜かれましたが、ニッキーを捕らえる事ができたのはカピロッシだけです。この時点では、まだロッシが自分の背後にいると思っていたので、どんどんペースを落としながら、ニッキーを先に行かせました。」

「ロッシが転倒した事を知らされてからは、もう一度ペースを元に戻し、メランドリとストーナーを交わそうとしましたが、簡単にはいきませんでした。」

「最終的に後続(ストーナー)を少しだけ引き離しましたが、タイヤはもう限界でした。ただ、メランドリとの差は十分にあったので、最後の5周はあまりプッシュせずに最後まで走りきりました。」


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